うれし,たのし,ウミウシ。
- 2015/09/02
- 19:04

『うれし,たのし,ウミウシ。』
媚薬,贈り物,共食い…そこまでやるのか,ウミウシ。
著者:中嶋康裕(日本大学教授)
岩波科学ライブラリー240
定価(本体1300円+税)
『海の宝石と称され,その華麗な色や形態からダイバーたちに大人気の海洋生物ウミウシ。
しかし美しい姿とは裏腹にヒトが想像もつかないような驚くべき繁殖戦略をおこなっている!
ウミウシをはじめ,奇想天外なあの手この手を駆使してたくましく生きる海の生き物たちのふしぎと海洋生物を対象とする行動生物学者たちの姿に迫るエッセイ。』
本書は 2005 年から 2013 年の間に,雑誌『科学』(岩波書店)に「星砂 Times」のタイトル名で連載されたエッセイの約半数を中心
に構成されており,第1章の「雌雄同体の葛藤」「使い捨てペニスとその補充」,第2章の「媚薬は恐い」「贈り物に隠された計略」など
では,ウミウシやヒラムシなどの性戦略における専門的知見が紹介されていて,興味深く驚きに満ちている。
また,行動学者フリッケ氏が海中実験で観察したハタとウツボの共同ハンティング例の紹介など,わくわくするような話題が豊富で,読んでいて飽きない。
公開臨海実習時に起きる台風対応などのエピソードや,生活体験の乏しい新入生たちに磯観察を指導する際の苦労話など,思わず共感して頷いてしまう話題も多い。
少し残念なフランスの博物館の現状に関連し,博物館などへの専門家の配置が減りつつある状況や,サンゴ礁などで生物多様性が失われつつある環境破壊の現状への警鐘なども含まれていて,さりげないけれども奥深い内容の書物となっている。
また、本書を飾るウミウシなどの素晴らしいスケッチは, 本書をさらに分かりやすくするとともに,雰囲気を盛り上げてくれている。
是非,生物関係の多くの皆様に御一読いただきたい一冊としてご紹介する。
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